こんにちは。

渡辺水華です。

“a(an)”や”the”などの冠詞もそうですが、
短くて見過ごしがちな単語は
実はとても奥が深いと感じます。

短くて頻繁に使う単語だから「簡単」とは限らないのが
言語の面白いところでもあります。

“or”は常に「または」か

“I will have some coffee or tea.”
「コーヒーか紅茶をいただくわ。」

この英文では、話者が
「コーヒーまたは紅茶」を飲もうとしていることがわかります。

さて、現在、私が勤めている翻訳会社では法務文書を扱うこともあり、
文中に”and”や”or”、”and/or”が頻繁に出てきます。

ほとんどの翻訳者が”and”を「および」、”or”を「または」と訳します。
学校でもそのように習いますし、これは間違いではありません。

それでは、この英文を訳してみましょう。

The Company X shall be liable for death or personal injury resulting from negligence of the Company X.
X社は、X社の過失による死亡または人身傷害に責任を負うものとする。

少し違和感がないでしょうか。

「死亡または人身傷害」ということは、
「死亡」か「人身傷害」のいずれか一方に責任を負えば済むと取れなくもありません。

常識から判断すれば、X社の過失が原因であるにもかかわらず、
「死亡」に責任を負えば、「人身傷害」には責任を負わなくていいとも取れるので、
人身傷害という被害を被った立場の人からすれば、「それはないだろう」ということになります。

この場合の”or”は、「~にも、~にも」と解釈した方がよさそうです。
つまり、「死亡にも人身傷害にも(責任を負う)」ということです。

ですので、日本語では、
「X社は、X社の過失による死亡および人身傷害に責任を負うものとする。」の方が
正確に情報を伝えているといえるでしょう。

“liable for”は「~に責任を負う」という意味で、
契約書や保険の適用範囲を示す文言によく使われます。

“result from”は「~という原因によって(結果的に)生じる」という意味です。

この英文は、”…death and personal injury…”としても意味はほぼ同じで、
「死亡および人身傷害に(責任を負う)」ということになります。

否定文にしたときの”or”と”and”

では、これを否定文にしたときの解釈はどうなるでしょうか。

The Company X shall not be liable for death or personal injury resulting from negligence of the Company Y.
X社は、Y社の過失による死亡または人身傷害に責任を負わないものとする。

これもまた、「死亡」には責任を負わなくても、
「人身傷害」には責任を負う可能性を感じさせる訳文になってしまっています。

文意は「死亡にも人身傷害にも責任を負わない」ということですので、
「X社は、Y社の過失による死亡および人身傷害に責任を負わないものとする。」とした方が
情報が正確に伝わります。

また、このような否定文の場合、
“The Company X shall not be liable for death and personal injury resulting from negligence of the Company Y.”のような”and”の用法はあまりみられません。

これですと、「死亡にも人身傷害にも責任を負うというわけではない」、
つまり、「死亡」に責任を負うことはあっても、
「人身傷害」には責任を負わない可能性もあるし、
その逆もあるというニュアンスになってしまうためと思われます。

“and/or”の解釈

Insurance covering loss and/or damage of cargo
貨物の滅失および/または損傷を補償する保険

このように、”and/or”はそのまま「および/または」と翻訳されることが多く、
日本語としては不自然ながら、納品先にもこのまま受け入れられることが多いです。

しかし、中には、この訳し方に若干、不満を示すお客様もいなくはありません。

“A and/or B”は、「AやB」とするのが自然に聞こえますし、
これで支障がなければ、そのようにされるといいと思います。

しかし、法務関連文書については、
「や」で対応するわけにはいかないことも多いでしょう。

“A and/or B”をもう少し詳しく説明すると、
「AとBのうち、いずれか一方または両方」という意味になり、
「一方または両方」のように訳されることもあります。

また、”and/or”の前後に来る単語の意味や話者の意図によって、
「および」に近かったり、「または」に近かったりしますので、
一概にどの訳し方が正しいと決めてかかることはできません。

ただ、「AとB」でもよく、「Aだけ」でも「Bだけ」でもいいという場合は、
日本語の「または」が最もよく対応しているのではないかと思います。

“or”の意の重複を避ける

最後になりますが、

“I read books or watch TV on weekends.”を
「私は週末、本を読むか、またはテレビを見ます。」のように訳す方が本当に多いです。

「か、または」の「か」は英語の”or”に対応していますので、
改めて「または(or)」を付け加える必要はありません。

「週末は本を読むか、テレビを見ています。」のように訳すとよいでしょう。
主語が「私」であることが明白であれば、「私は」は省略できます。

また、「見ています」というのは現在進行形ではなく、
週末の「習慣」のニュアンスを表わしています。